三線はギターのように弾くというよりも、バチの重さでそのまま下へおろす、という表現をよく聞きます。これは本当にその言葉の通りで、バチの重さを使ってそのまま下へ落とすと綺麗な音が出ます。
そしてその音を出すのに大事なのがバチです。
バチは自分にあったものを選ぶ、と至るところに書いてあるのですが、自分にあったものとは何なのでしょうか?
素材、大きさ、重さに関しては、とにかくいろんなものを試してみてください。お店で少し弾くぐらいでは好みはわかりません。最初は多少無駄なお金になりますが、いくつもバチを買ってみて、引き続けて、フィットするものは何かを探してみると良いでしょう。よくわからない場合は先生がどんなバチを使っているかを見て完全コピーする、あるいは好きなアーティストの画像とかを見て真似するのが良いかもしれません。
私は結果的に民謡を弾く際は7.5~8cmのバチが一番弾きやすく、この長さに落ち着きました。メインはマッコウクジラの歯で作製した8cmのバチ。民謡で早く弾く時には写真真ん中のアクリルバチや、自分の爪(人差し指の爪)を使っています。
古典の稽古の時は、各バチのLLサイズ(写真右 9cmぐらい)を使っています。古典は民謡に比べてゆっくりな曲が多く、バチは大きめ(重め)が推奨される?ので、先生の真似をして一番巨大なサイズにしました。また、古典の場合は右手の動かし方(一拍拍子を取るのにゆっくり宙で止めたりする)が重要で、先生の右手の動きを真似することから始めるので、同じバチを使うことが重要だったりします。サイズが違うと自分が目の前で見ている手の形と自分の手の形が異なるので、真似しても少し異なってるように感じるからです。
さて、素材、大きさ、重さだけではなく、大事な点が以外と触れられていないので、ここでは詳しく言及したいと思います。それは、バチの爪先です。以下に3種類用意しました。どれが良いというよりも、バチの種類と弾き方が密接に関係するので、そこを解説します。
バチの先端がほんの数ミリ単位ですが上向きに沿っています。市販のものでこの形は滅多に見かけません。三線職人さんに作ってもらうとこのような調整が可能。
バチの先端がほぼまっすぐに加工されたバチ。こちらもたまに市販で見かけますが、私のこのバチは職人さんに加工してもらってまっすぐに調整しています。
市販で一番多いのがこのタイプで、先端が下へ向かって山なりになっているタイプ。この手のバチは、弦に対して滑りやすいです。
結論として個人的見解ですが、バチの先端がやや上向き、あるいは真っすぐに加工されているバチをおすすめします。実際にはそういうバチはあまり売られていないので、重さが適当なバチを買い、三線屋さんで加工してもらうか、自分でヤスリをかけることになります。
バチ先が上向きを推す理由(元々銘苅春政先生から聞いた話なので私の論ではありません)は弾き方にも関連するのですが、バチが弦にきれいにかかりやすいからです。少々上に向いてたほうがきれいにかかるよ〜とよく言われてます。実際に銘苅先生のバチを使うようになって、なるほど、と思うようになりました。
ただし、これは本当に好みによります。かかりすぎて嫌だという人もいるので、弾き続けて自分にしっくりくる感覚を見つけましょう。うまい人はどんなバチでも角度を変えて弾けますが、習いたてではそうはいきません。
これは是非探して試してもらいたいのですが、よく三線屋で販売されている安い山なりのバチだと、うまく角度を調整して弾かないとバチが滑ってざらついた音がします。
このざらついた音を出さないためには、次のパートで紹介しますが、弦に対してバチを適切な角度に立てない限り、きれいな音になりません。
しかしながら、三線教室(民謡)などでは弦に対してバチは寝かせなさいと教わったりします(先生による)。寝かすのであればバチは先端を真っすぐか上向きにそらさないと、弦が滑りやすく、ざらつきます。ざらつくというのは文字通り、弦を弾いた時にターーンという音にザラっという音が混ざるんです。意識して聞いてみてください。お手持ちのバチはいかがでしょうか。
さて、詳しく説明するとこういうことです。
先に注釈を入れますが、このあたりは教える先生によって全然言うことが異なりますのでお気をつけください。この話は民謡の教室で私が聞いて纏めるとこうなるという話です。実際に古典の教室では全然異なるバチの当て方をしています。
写真のように、論理的には弦に対して直角の角度で弦があたるとよいのですが、この角度でバチを当てるには少し工夫がいります。
冷静に考えると当然なのですが、三線を構えた時に棹を斜め上45°ぐらいの角度で持ちます。ということは、です。当然ですが弦も斜め上45°の角度になります。
この弦の角度に合わせてバチの角度、手の角度を調整しないと写真のように弦に対して直角に当たりません。次の写真以降でさらに詳しく解説していきますが、三線を試しに膝の上に乗せて構えてみてください。当然ですが、その景色から弦とバチを見下ろすと、直角に当たってるかどうか見えないはず。
上からの角度ではわからないんですよね。なので、バチ捌きが正確にできるようになるまでは、鏡の前に座って練習することをお勧めします。正確にバチが当たらないと綺麗な音が奏でられません。基本ではありますが、重要なことの一つです。
この角度が慣れるまで、多少手は疲れるかもしれません。最初は私も手首というか手の右側というかが痛かったです。最初の数日ぐらいですかね。
それがだんだんフィットしてきて、自然にできるようになりました。自然にできるようになると、教室で注意されることがなくなり、音も綺麗に鳴るようになりました。
右手は感覚的には先端を体の右上に向けるイメージで傾けます。これは手首の角度で調整してください。前述のとおり、棹が斜め上を向いてる分、手首をさらに捻らないと直角にあたりません。
そしてこれが最もありがちな最初の弾き方です。どうしても右手の収まりがよくわからないんですよね。どこにどうおけば良いかわからない。三線を膝に乗せて上から見ると、この角度が正しいように思えるんです。
最初は本当に気持ち悪いです。手首の感覚が気持ち悪い。なんでこんな気持ち悪い形で弾くんだろう?って思うかも。でも安心してください。すぐ慣れます。
でも、再三書きましたが、棹は斜めを向いています。よって弦も斜め上を向いています。
ということは、バチを上からみた時にこの写真のように先端が右斜め上(右肩の方向)へ向けないと、直角にならないのです。
直角にバチを当てないときれいな音になりません。
すべてはきれいな音のため、右手を柔軟にしておきます。本当かどうかわかりませんが、空手家の人は手首が硬くて曲がらないからこれができないなんて嘘のような本当の話?を聞きました。
実際のところどうなんでしょうね?
二つ前の写真(バチのNGな角度)を上から見るとこういう角度になっています。こっちのほうが上から見ると自然な角度なんですよね。なのでこうやって引きがちです。
私も三線教室に通う前まではこんな角度で適当に弾いてました。そして三線教室で無理やり強制されました。その際は論理的には解説してもらえず、無理やり手首を捻じ曲げられましたが....
この理論をわかりやすく教えてくれたのが実は銘刈先生なんですよね。三線製作の第一人者にバチの持ち方を非常にわかりやすく解説されたという、なんとも幸運なお話です。ちなみに銘刈先生は琉球古典の安冨祖流です。
さて、ここからが結構大事なポイントです。バチは弦に対して直角にあてるのですが、バチは寝かせます(ここは流派や教える人で多少異なるようです)。なぜ寝かせるかというと、赤い矢印の方向に弦を揺らして音を出すからです。
バチの先端で弦を押し込むように弾く。弾くというより下ろす。すると、弦自体は銅と弦の間を上下に揺れ、音が鳴ります。これが正しい弾き方です。
感覚的には上から押し込むように下ろす、というのが言葉としては適切かと思います。弾いたあとは、下の弦で先端を止めます。
そしてこの写真がNGな弾き方ですが、ギター経験者は最初必ずこういう弾き方をしてしまいます。肘で弾きながら弦を弾く感覚です。これはNG。
三線は肘は動かさず、手首の上の部分を銅に固定し、手首だけを回しながら弦は押し込むように上下させます。三線コンクールの総評でもこのあたりをチェックされていましたが、弦を弾くように弾いてる人がいた、とマイナスポイントとしてあげられていました。男弦から女弦にかけて(この写真でいうと)左右に揺らすわけではなく、弦と銅の間を上下に揺らす感覚で弾くようにしましょう。
番外編として、ギターのピックを使う人も多いのでそのことについて書きます。
まずギターのピックは有りか無しかという話ですが、三線教室やコンクール等ではNGです。古典は伝統音楽なので言うまでもなくNG。必ずバチを使用します。ただし、民謡居酒屋とかフォーマルじゃない場ではピックを使う人も多いです。特にPopソングなどではバチに不向きなリズムもあるので、その時はピックのほうが滑らかに弾けたりします。例えばでこの動画を載せておきますね。
こういう曲、というよりこういうアレンジはたぶん三線教室でやらないので、家で弾く時などはピックでいいでしょう。
さてどういうピックが良いかというと、特になんでも良いみたいです。大抵MEDIUM(硬さ)と何となくで言われるんですが、HARDでも音に差は感じられませんでした。とある宮古島の三線屋でピック使うと弦をいためるからダメよ!と言われたんですが、あんまりそれ関係ないと思います。私は普段ギターで一番右のティアドロップ(涙型の形状)のハードを使っているので、それをそのまま代用してます。
ただし、いずれにしてもバチでしっかり弾ける(形として整い、音も綺麗にでる)ようになってからピックを併用することをおすすめします。まずはどんな方でも絶対にバチです。
もう一つお勧めな方法のご紹介です。
民謡などの場合は、自分の爪で弾かれる方も多くいらっしゃいます。大御所の知名定男先生の教本にも、バチは忘れることもあるので自分の爪と弾いている、と記載されていました。
音もバチの素材を変えると変わるように、比較的自分の爪で弾くと優しい音がする気がします。
大体ですが5mmぐらい?伸ばさないと、弾きにくいというか、うまく弾けません。これを保っていかないといけないので、仕事上できない人もいらっしゃるかもしれませんね。
私は民謡弾く時はもっぱら自分の爪で弾いていますが、多少仕事でキーボードを使う時にへんな感じがします。
自分の爪で弾きたいのに、少し伸ばすとすぐに爪が割れちゃうという人は、アロエオイルや写真のようなネイルケア用のオイル(男性には馴染みのないものですが)を買い、爪に擦り込むように塗っていると、次第に割れなくなります。
もともとは私もネットでアロエオイルを塗ると割れなくなると書いてあるのを見て半信半疑で試したのですが、これが本当に割れなくなったんですよね。驚きでした。
三線のバチ(爪)にはいろんな種類と形があります。そのほとんどは大量生産の既製品ですが、希少なものでいくと象牙のバチ、クジラの歯などで製作されたバチがあります。
このあたりは大抵Mサイズ(7cm前後)でも4万円以上します。希少だから高いというのが高価格の理由です。
が、この二つを持ってみて、なるほど、これは払う価値があるかもしれないって思いました。水牛の角に比べて、二つの素材ともに重いんです。三線は手の力で弾くのではなくバチの重さで弾くと書きましたが、バチの重みを利用することで余計な力を入れず、きれいな音が奏でられます。
そういった意味でも、象牙やクジラは入手できるならかなりおすすめです。
私の持った感じですが重さの順序はこんな感じです。
クジラの歯 > 象牙 > 水牛の角
ちなみに写真にあるクジラの歯のバチは、お店に置いてあったものを撮影しただけです。那覇の国際通りのクジラアクセサリー屋に置いてありました。価格は10万円。約7cmぐらいの象牙のバチよりもずっしり重かったです。
さて、この象牙とクジラの歯のバチの入手方法ですが、なかなか簡単には手に入りません。バチとしての完成品を見かけることもあまりありません。現在ではヤフオクが象牙の取引を禁止したため、滅多に見かけることもなくなりました。
よって、ここからは財布に余裕がある方のみの方法ですが、入手方法例を記載します。
メルカリなど象牙はいろんなECサイトで購入ができなくなっていますが、ヤフオクもついに禁止となりました。これで事実上、公の買いやすいところで象牙を手にすることが難しくなったと言えます。
なんらかの形で象牙が手に入ったら、それを馴染みの三線屋に持ち込んでバチに加工してもらうという方法が現実的かもしれませんが、三線屋さんもバチ製作は手間だけかかって儲からないと言われることも多いので、現実難しくなってきました。サイズによりますが、象牙そのものの値段と加工代を併せると市場価格として7万円~10万円といったところでしょうか。今はもう少し高いかも。
クジラの歯の場合も同様で、クジラの歯そのものを購入する。こちらは象牙よりは比較的入手しやすいかもしれませんが、注意しないといけないのはマッコウクジラの歯は中が空洞になっているものが多く、中が詰まっている歯を探す必要があります。それがなかなかないので大変です。こちらもサイズによりますが、5~15万円の間といったところでしょうか。
クジラの歯の場合は、完成品も売っています。沖縄の海想というお店で販売しており、私は現物を見ましたがちょっと先端が細く、9cmほどありましたが、加工したら7.5cmぐらいになりそうでやめました。価格は10万円。
バチへの加工代は三線屋によって異なりますが、3万円~5万円の間ぐらいかなって思います。ここは弾きやすさに直結しますので、どの三線屋に頼んでも大丈夫ってわけにはいかないので、馴染みの三線屋が良いでしょう。