はじめて購入する三線はどのようなものが良いのでしょうか?自身の経験もさることながら、三線教室にこられる方の体験も元に書いていければと思います。
三線教室を続けていると、月に何人か新しい方々が入ってきます。皆それぞれBEGINに影響されたり、沖縄旅行から戻ったばかりだったり、あるいは海の声を聞いて弾きたくなったり。それぞれ動機やきっかけは異なるのですが、8割方の方は動機とモチベーションが軽いです。動機は人それぞれですので良いのですが、問題は手に入れる三線の質です。
比較的多いパターンが、那覇の国際通り付近のお土産屋などで1万円を切る三線を買われ、教室に持ってこられます。
こういう三線を持ってくると、困ったことに初回からちんだみ(チューニング)ができず、ほぼ最初のレッスンをちんだみで終えるという事態になります。
ちんだみというのは、男弦をBの音に、中弦をEの音にといった具合で、正確な音にするためにカラクイ(ギターでいうペグ)を回して音を合わせる行為です。ギターのような近代楽器の場合はなんでもない行為なんですが、三線の場合、三線の穴もカラクイも手作りで、木を職人さんの感覚で削って作られています。熟練の職人さんであれば木の噛み合わせの調整が絶妙なんですが、安い三線は東南アジアで作られたものを輸入しており、作りが雑です。なので、カラクイが止まらないなんてことがよくあります。
これは、初心者なのでちんだみのコツを心得ていないというのもあるのですが、それ以上にやはりカラクイがひどいことが多いです。何をどうやってもうまくいかない安物の考えられないようなカラクイがつけられていて、補助する私からすると腹立たしいほどです(私の練習の時間もこれに奪われていきます....)。
しっかり三線を続けたいのであれば、まず断言できるのがお土産屋の格安三線だけは手を出さないのが無難です。スキルや知識がない方ほど、やめたほうが良いです。楽器に慣れてないので、雑な作りのものはうまく調弦できません。
音が良いとか悪いとかいう前に、ちんだみ(チューニング・調弦)がうまくいかないと弾くことすらできないですからね。
嘘みたいな本当の話ですが、それぐらいひどい作りのものが当たり前に売られていて、安いからという理由で購入し、結果としてまともに練習すらできないのです。
私の周りの方は、結局皆買い換えています。
最初からやる気があって、弾き続ける予感がする方は最低限5〜8万円の三線を、ちゃんとした三線屋さんで手に入れることをオススメします。安い三線は、比較的早いタイミングで買い換えることになると思います。また、これは人口の差だと思いますが、弾く人の多いギターは昔から分割払いが定着しています。ギターキッズが何十万とするギターを手に入れられるわけがないのですが、ギターをローンで購入し、毎月1万円ほどの支払いで購入しているのです。
実は、三線屋さんによっては相談次第で分割払いをOKにしているところもあると聞きました。ローンでなくとも、クレジットカードで購入し、カードの分割払いで支払ってる方も多くいるようです。長く続けるためにも、ぜひ納得の一本を手にしてみてください。
ちなみに、八重山黒木が希少というのは変わりないのですが、八重山どころかすでに状態の良い黒木(カミゲンもフィリピンなども)は仕入れが難しくなっているそうで、私のよくいく三線屋さんにも良質な黒木の在庫は数えられるぐらいになりました。ただ、あるところ(三線屋)にはあるんです。情報を知っていれば、買うことも可能ですが、インターネット上にはまず出てきません。
また、何人かの職人さんは質の悪い八重山に手を出すぐらいなら、良質なフィリピンやカミゲンで絶対作るとおっしゃるように、質の良い八重山は滅多にないみたいです。で、いわゆる真っ黒な黒木は以前東南アジアや南アフリカから手に入ったのですが、ここ最近はもうそれも難しくなってきたようです。
ということは、在庫がなくなり次第、良質な黒木での三線は製作できなくなる恐れが出てきているのです。なので、迷ってる人は早めに買わないと、近い将来黒木の三線が手に入らなくなりそうです。
あくまで私が知っている範囲で黒木の良いものをまだ在庫があるのは、みなみ三線店さん。ここは最近天川杢(あまかーもく)という名で、カミゲンの杢目のきれいなものを使って製作されてます。天川とは天の川のことで、なんと言い得て妙なんでしょう。
そして黒木と同じぐらい希少性が増しているのがユシ木です。これは、三線の名器開鐘のなかの富盛開鐘がユシ木で作られており、以前から音が伸びやかで柔らかく、黒木に勝るとも劣らないと言われてきました。
特に民謡の方が使われているイメージですが、私の師匠も民謡のステージではユシ木を使って弾いています。ユシ木は主に沖縄本島北部は山原の山原ユシ木が有名でしたが、最近石垣島の八重山ユシ木というものの存在を知りました。これは芯の部分が黒木のように黒くなっている黒ユシ木と、赤くなっている赤ユシ木があります。特に黒ユシ木は大変貴重な材で、三線好きが探し求めているものです。
つい先日、そんな八重山ユシ木を大量に持っている三線工房の八重山三線工房を偶然発見しました。ここは少量ですが、本場八重山にあるだけあって、八重山黒木もあります。石垣島の隠れた銘店です。
また、昨今は黒木のみならず状態の良いユシ木も手に入らなくなってきてますので、見つけたら購入を検討しても良いかもしれません。
購入時に戸惑うポイントの一つですが、三線は棹の材質によって値段が大きく左右されます。え?胴(ボディーの部分)は音に関係ないの?って思いますよね。当然胴こそが音色に大きく関係するのですが、それよりも棹が注目されるのがこの三線の世界。理由としては、棹に使われる材木に希少性が大きなポイントです。年々高い木ほど枯渇し、手に入らなくなっているようです。もう一つは、音色を左右するのは胴なのですが、胴に使われる蛇革はいつか破れます。胴は消耗品なのです。なので、棹よりも金額に与える影響が少なくなっています。
木の種類 | 値段 |
八重山黒木 | 30万円以上 〜 数百万円? |
南方産黒木(カミゲン) | 10万円 〜 80万円ぐらい |
ゆし木の実入り | 25万円 〜 50万円ぐらい |
縞黒 (カマゴン) | 7万円 〜 25万円ぐらい |
紫檀 | 5〜8万円ぐらい |
ゆし木(実なし。シラタ) |
10万円 〜 30万円ぐらい |
その他 | 1万円 〜 5万円ぐらい |
さて、棹の木の材質が音に影響するのか?という話ですが、音という言葉はざっくりしているので二つに(音質と音色)分けると、ある三線製作職人さん曰く、音色は胴と部当てだとおっしゃってました。非常に有名な製作者の方は、棹は音色に関係ない、と断言されていました。が、実際には棹の材質(硬さやシラタの比率)で音の振動が異なるため、影響があるようです。
正確には硬いけどしなる棹だと、その振動が胴にきれいに伝わり、良い音が鳴るとのこと。とは言え、わかりやすく音色に一番影響するのは棹よりも胴の張り(どれぐらいの固さで蛇皮を張るか)のようです。詳しくは三種類の買い方のページで書いています。
私の拙い経験値ですが、楽器未経験の方は5万~7万円前後の入門用三線で十分三線演奏感を味わえると思います。むしろ弾きこなせるまでは値段の差はよくわからないかもしれません。一方、弦楽器経験者の方は、長くやればやるほど音の違いや弾き心地、三線の差が気になるはず。その場合は最初からそれなりの物に手を出すほうが結果的に良いと思います。私のように買って1年で買い直すことになるかもしれませんので。おすすめは、ある程度良い物を手早く手に入れたいならば。みなみ三線店にあるセミオーダー三線です。出来上がっている棹を選び、皮張りだけオーダーできますので、時間を短く好きな音色の三線が手に入ります。
この写真は私の2本目の三線ですが、伝統工芸士の銘苅春政氏の作品です。このクラスの方になると、その名前だけで値段が跳ね上がるそうです。市場価格で60万円 〜 100万円ぐらいの間。でも、納得のいく、家宝にもなる三線をと思い、見つけ次第即注文しました。
三線を調べていくと、「三線に30万円以上払うべきではない」とか、「○○三線屋はぼったくりだ」などの心ないコメントに遭遇します。どの世界にも陰で悪口を言う人はいるもの。ここで書いておきたいのは、三線は楽器であると同時に工芸品の側面も持っているということです。
単に音の鳴る電子的な楽器であれば、その通りかもしれません。しかしながら、三線は工芸品としての価値も同時に併せ持ち、かつ棹で使用される木材(黒木)がなかなか採れないことから値段に希少価値が付き、100万円を超えるものさえ存在します。需要と供給のバランスなわけです。それについてああだこうだと書く人がいますが、買い手が納得して購入するのであれば、それでいいのではないでしょうか?バイオリンとかもっとすごいですよ。
個人的な感想としては、三線が高く売れることによって三線製作者が潤います。三線製作者が潤うとわかれば、もっともっと三線製作者を目指す人も増えるでしょう。ひいては、それが三線全体の質の向上にも繋がるでしょうし、市場の活性化にも繋がります。より安い方向へ向かう良いことなのではないでしょうか。
前述しましたが、最高級三線、高級三線と呼ばれるものはWebサイトによっては棹の写真しか載っていません。にも関わらず、高価な値段がつけられています。買う側からしたら、これは棹だけの値段なんだろうか.....完成品になったら果たしていくらなの??と不安に思います。
念のために購入前に確認するのがベストですが、掲載されている値段は大体が胴や弦も含めた完成品の値段です。が、念のために確認しましょう。
なぜこのような棹だけ掲載値段提示になってるかですが、いくつかのパターンが存在しますが、販売する人が棹だけを製作者へ発注して仕入れ、その後の工程は半ばセミオーダー的に組み上げるような流れがあります。単純に保管時に場所をとらないという利点もあるのかも?
あとは皮の質やティーガーの種類で値段が変わるため、オーダーする人の予算に合わせるためにも、オーダー後に組み立てるという流れになっているようです。